日々、ティン・ホイッスルやアイリッシュ・フルートなどのケルトの笛を日本に広める活動をしている。
僕は個人的な音楽の好みはケルト&北欧の伝統音楽に偏っていて、 それ以外聴くことはほとんどない。演奏の方面でも、ポップスやクラシックや映画音楽をケルトの笛で吹きたいとは全然思わない。
しかしケルトの笛屋さんを経営するにあたって、楽器というのは単なる道具なのだから、僕の個人的な音楽の嗜好を押しだすと、返ってこの笛の用途を狭めて、お客様を縛ってしまうことを危惧した。
例えばリコーダーが最も華々しくその性能を発揮するのは古楽だし、ティン・ホイッスルが一番魅力的に聞かせられるのは伝統音楽だ。そして、それらの音楽を演奏するために練習している人が最も多いだろう。それは事実なのだから、笛屋さんでは伝統音楽の普及というソフト面にも力を入れている。たとえば無料の楽譜ダウンロードや、CDや国内外の演奏者の紹介だ。
だがティン・ホイッスルを吹きたい人は、伝統音楽愛好家だけではない。映画音楽やアニメやゲームを通じて出会う人も多いし、クラシック音楽を背景に持つ方が吹くケースも多い。だから、色々な使われ方があっていいと思うし、むしろそのほうが楽しい。
伝統音楽がマイナージャンルな日本においてこの楽器を普及させるには、伝統音楽だけではない魅力や楽しみ方を発信することが必要だ。
だから、僕はフルートやリコーダーの世界に顔を出し、その楽しみ方を学んできた。「ケルハモ」は、伝統音楽に壁を感じているクラシックやアンサンブル経験者にも入りやすい、世界にはまだない試みだと自負している。
※ケルハモ…ティン・ホイッスル(またはリコーダー)による、合奏曲の楽譜の製作販売。
https://celtnofue.com/store/cellhamo/celhamo-about.html
先日、オカリナの通販では国内最大手と思えるテレマン楽器を訪問し、国内のオカリナ愛好家のことや楽器販売の成功の秘訣を伺った。オカリナの成功方法はティン・ホイッスルでは同じように使えるわけではない。
オカリナとティン・ホイッスルとで状況が違うのは、
以下4点だ。
(1)年齢層
(2)プロ・プレイヤーの数とアマチュアの層の広さ
(3)フェスティバルで発表する文化。
(4)国内メーカーの豊富さと品質の高さ
オカリナは中高年が多く、ティン・ホイッスルは、それに比べると若い人や学生が多い。
プロ奏者やスタープレーヤーが少なく、個人で楽しみ、セッションにも参加しない人が大半だ。
何しろオカリナには、フルートやリコーダーと同じ、同種楽器での合奏の文化がある。そして、伝統音楽やクラシックなどの特定の音楽的な背景がないために、むしろどんな音楽でも楽しめる。
音域はやや狭いがすべての半音階が出るので、ポップスやジャズやクラシックなどジャンルの対応範囲が広い。その上、リコーダーやフルートに比べて手軽に楽しめる印象がある。楽器の値段も、全体的には安い。
僕は個人的にはオカリナの音色はピュアすぎて面白味に欠けるし、歴史や文化的な背景がない音楽には興味が持てないのだけど、音程が自在に操れて歌声のような人間味があり日本人の感性には良く合うのは良く分かる。
僕はティン・ホイッスルに楽器としての魅力や可能性を感じているので、どんな形であれこの楽器が
多くの人に親しまれて欲しいと思っている。楽器はすでに充分に性能が良いものが出ているので、オカリナのように広がるためには、魅力的な演奏者の登場、魅力的な楽曲、魅力的な楽しみ方が不可欠だ。先日の豊田耕三君のアイルランドのコンペティション入賞が象徴するように世界に通用する日本人演奏家がいることは素晴らしいことだと思うし、アイリッシュに限らず、この楽器を魅力的に演奏する日本人奏者がもっともっと続いてほしいと願っている。そして、応援もしたい。
また、アメリカのように世界に通用する国産ティン・ホイッスル工房がどんどん出現してほしいが、それはまず日本国内の市場が大きくならないといけないのだろう。
イタリアで生まれたオカリナが日本で独自の発展を遂げ、日本ならではの楽しみ方がされているように、伝統音楽が背景にあるティン・ホイッスルも、その枠を超えて日本独特の形で日本人に愛されることを願い、これからも普及に力を注いでゆきたい。
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