店が開いてから、仕事、仕事の日々である。
商品の選定、楽器工房とのやりとり、送金、通関の手配、原価計算、販売記録、商品紹介、お客様の問い合わせへの対応など、毎日やることが山ほどある。
ひとつひとつの商品にラベルを貼っていると、なんで音楽家の自分がこんなことに時間を使っているんだろう? 練習がしたい…と思うことも正直ある。
3月以降笛を吹く時間が確実に減った。毎月、数百万円単位でお金が動いて行くのが当たり前になった。貯金がなくなる悪夢を見たこともある。事業をするというのはなかなかタフだ。
僕にとって演奏もレッスンも本を書くことも曲を書くことも、そして楽器を販売することも等しく大切な仕事だが、最近は時間と頭の中を経営が占める割合が大きくなり、バランスを取りにくくなった。これは音楽家としてヤバイ、と危機感を持っている。
楽器店は長年の夢ではあったが、いざ現実になると、延々と瑣事が積み重なり、コストとの闘いを続けるのである。経営とは長距離飛行のプロペラ機を、燃料と高度の計器を見ながら、風を読んで操縦するイメージがある。下手したら燃料切れ、または墜落である。副操縦士や整備士との連携も大切だ。
将来的には店長に仕入れから販売まで一貫して経営を任せたいが、それは今後の行方次第。今は僕が深く関わって見守らなくてはいけない時期だ。
最近ご縁があって、篠笛奏者の狩野泰一さんとコンサートをさせていただけることになり、リハーサルをご一緒し、コンサートを拝見した。
55歳になる狩野さんはなおもギラギラしていて、演奏で生きている人は真剣味と気迫があり、在り方がカッコ良いなと素直に尊敬した。やっぱり、僕は音楽家であり続けたい。楽器屋のオヤジになりたくはない。ああいう兄貴になりたい。
楽器店は、この音楽を愛する人のために、そして
僕の生き方を体現するために必要だった。今はこのお店を軌道に乗せるためにエネルギーを注ぐ時間なのだ。女性音楽家だって、子供が生まれたら産休を取ったり活動を制限しなくてはいけないことがあるではないか。でも、ここで終わらずにもっと先を見すえていよう。
狩野さんの曲に「どうどうめぐり」というのがある。演奏活動において同じことを繰り返していてまったく進歩が無いように思える時があるが、その積み重ねがあるからこそブレイクスルーが起こるのだ。日々の積み重ねを大切にしたい、そういう思いを込めたそうだ。
自分の店を持つ事を夢見る多くの人にとっては、店長としてお客様に商品への愛を示すことが喜びなのだろう。その喜びを人に任せてしまうのも、もったいないことだ。可能な限り、僕もお店に関わって、今を楽しもうと思う。
しかし、常に音楽家である自覚は忘れないようにしたい。何事も100%で行こう。
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