2018/12/03

たった今、僕の身に起きた怖い話

※実話です。怖い話が苦手な人は読まないでください。

月曜日の仕事を終えて、家に帰るときだった。

雨が振る生温かい冬の夜、帰り道のきつい坂を登って、家まであと20メートルという暗い夜道を、向こうから白髪の老婆が杖をつきながら、とぼとぼと歩いてきた。

夜9時を回ったこんな夜更けに、散歩じゃないし、なんだろう……。と思っていたら、向こうも僕のことをじっと見てきて目と目が合ったので、「こんばんは」と挨拶を交わした。丸い顔をした、やさしそうなお婆さんだ。

お婆「娘家族に会いに来たんだけれど、道に迷ってしまって……。ここから、どうやったら出られますか?」

僕「どうやって来られたのですか?」

お婆「バスで来たんです」

僕「そこの坂を下ったところにバス停がありますが、1時間に1本しかありませんし、暗いし雨が降って坂道は危ないから、タクシーを呼びましょう」

その場で電話をかけ、タクシーが来るまで雨宿りのために家に上がってもらおうとしたが、お婆さんは固辞し、荷物を軒先に置いて待つのだと言う。手にはケーキと花束が入ったビニル袋を提げていた。

お婆さんの娘家族は、何十年も前にこの地域に住んでいたそうだ。お婆さんがどこから来たのか聞いたが、「梅田のほう」と言ったきり、その先が思い出せない。明るいうちにバスでこの山の上までやってきて、坂道を転んで手を擦りむきながら、何時間もずっと娘の家を探していたそうだ。

娘さんとはどうして連絡が取れないのか? お金や、住所が分かるものは持っているのだろうか…。いろいろな疑問が頭を駆け回る。

お婆さんが言う。「このあたりも長い間見ないうちに、ずいぶんと変わってしまってねえ……。娘の家は、すぐそこの、坂の上にあったはずなんだけどねえ。何度も坂を行き来しているのに、見つからないの」

そう言って指さした暗がりのきつい坂は、上がると行き止まりで、坂の左手には数戸の家があるだけ。そして坂の右手は山だ。突き当りには、20年以上前に、土砂崩れで若い夫婦と子供二人の一家四人が生き埋め死した家で、すでに取り壊されて現場は鉄壁で囲われているのだった。

僕は背筋がぞくっとした。

このお婆さんはきっと、娘家族が亡くなったことを忘れてしまって、会いに来たに違いない。そして、鉄壁で覆われているから、家が見つからないのだ。

ほどなくしてタクシーがやってきた。僕は運転手に1000円札を渡して、「このお婆さん、道に迷ったようなんです」と言って、駅まで送るように伝えたのだった。

明日、明るくなったら、お婆さんの代わりにお線香を挙げに行ってこよう。

0 件のコメント:

コメントを投稿